多くの人は自分の死に対するイメージは抽象的で、相続についても、漠然とは考えていても実際にどのように処理すべきか生前に検討することは少ないと思われます。自分が築いた財産等をどのように後の人たちに引き継いでいくか、自らの意思を反映する形でかつ相続人間で争いにならないよう生前に定めておくことは、人生の完結における最後の大仕事とも言えます。
一方で、故人の財産を相続した人は、法の定めと故人の意思を尊重しつつ、その資産を相続人で分配して各自受け継ぐこととなります。また相続は、単に遺産の分配という側面だけではなく、生前における相続人の故人に対する貢献への正当な精算や、残された者の扶養の確保という側面もあります。
弁護士は、被相続人の意志の尊重、相続人間の公平適正な遺産の分配の実現のために、あらゆる角度から助言、支援を行います。
ご家族に遺志を残しておくための遺言作成のほか、相続上のトラブルを円満に解決するために、交渉から調停・訴訟、書類作成まで万事をお手伝いいたします。
<遺言相続に関する項目>
・遺言・遺言書
遺言は、被相続人(故人)の最終意思を尊重する制度であり、被相続人(故人)は、遺産を誰にどのように配分するかを自由に定めることができます。
生前世話になった人に相続の際に御礼がしたい、あるいはお孫さんに財産を渡したい、自分に貢献してくれた特定の相続人に多めに財産を渡したい、というように、被相続人(故人)が法律の定めと異なる相続の配分を生前に希望するときに作成するものです。遺言書がない場合には、民法の定めに従って相続人に配分されます。もっとも、法定相続人には遺留分というものがあり、遺留分を超える財産を特定の相続人に渡すとする遺言については、後に紛争の種となる可能性がありますので注意が必要です。また遺言は、民法所定の方式によらなければならず、例えば、口頭で行っても有効な遺言とはなりません。民法は、遺言の形式を限定していますが、その中でも、自筆証書遺言、公正証書遺言の利用が一般的です。
・遺産分割
相続人が複数いる場合、例えば土地建物を3人の子である相続人が相続した場合、各人に3分の1の持分があることとなります。しかし、その持分割合の面積を自由に各相続人が利用できるわけではありません。3人で土地建物の利用方法を決め、3分の1の範囲で利益(賃料等)を得ることができるに過ぎません。
しかし、これでは相続のたびに不動産の持分が細分化されてしまいますし、その建物に住んでいる相続人はとても不安定な状態に置かれることになります。そこで、民法では遺言や法定相続分にかかわらず、相続人間で相続財産の分配方法を決めることが認められており、これを遺産分割といいます。上記の例では、実際にその土地建物に住んでいる相続人が土地建物を単独で相続し、他の相続人は他の遺産を相続し、足りない分は金銭で調整するといった取り決めも可能です。相続人間で協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停、審判によって分割方法を定めることができます。遺産分割は、相続人の間に複雑な利害関係を生じさせますのでご相談ください。
・遺留分
遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことをいいます。遺留分を得るためには、相続開始開始及び遺留分侵害を知ってから1年以内に「遺留分侵害額の請求」をしなければなりません。その他色々と複雑な部分がありますので、遺留分についてはぜひ早めにご相談ください。
※民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
・公正証書遺言
遺品から遺言書が見つかる場合があります。遺言書を保管している人は、相続開始を知った後、遅滞なく「検認」の手続を請求する必要があります。遺言書を保全し、関係者に広く周知して、公正かつ迅速に遺言の内容を実現するためです。公正証書遺言の場合は検認不要です(民法1004条)。封印のある遺言書は裁判所で開封する必要があり、相続人であっても勝手に開封すると過料に処せられる場合があるので注意が必要です(民法1004条3項、1005条)。
なお、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の施行によって、2020年7月10日より自筆証書遺言の保管制度が開始されました。自筆証書遺言を作成した人が法務局の遺言書保管所に遺言書の保管を申請できるようになり、遺言者の死亡後であれば、相続人らは遺言書保管所に遺言の内容を確認でき、家庭裁判所による検認も不要です。遺言書の手続は様々ですので、まずはご相談ください。
・相続放棄
故人の相続財産にはマイナスの財産が含まれる場合があります。もっとも、故人が亡くなったことを知ったときから3か月以内であれば、家庭裁判所に「相続放棄」の届出をして、故人の財産を相続しないことができます(民法915条1項)。
相続放棄により、プラスマイナス一切の相続財産を相続しないことができます。プラスの財産だけを相続することはできません。もし相続人がプラスの財産である現金等を使用すると、相続放棄の前後にかかわらず相続を「単純承認」したことになり相続放棄をすることができなくなりますので注意が必要です(民法921条)。
マイナス財産がある場合でも、プラス財産の範囲内でマイナス財産を相続する「限定承認」という制度がありますので、相続放棄と同じく3か月以内に家庭裁判所に申立てをすれば、相続したプラス財産の限度でのみ借金を返済することができます(民法922条)。ただし、相続人が複数いる場合は、相続人全員が共同しないと限定承認の申し立てはできません(923条)。
※故人が死んだことを知ったときから3か月以内に相続放棄や限定承認などの手続きをしないと、すべてのプラスマイナス財産を相続したことになります。もっとも、3ヶ月では相続放棄するか判断できない場合、理由によっては家庭裁判所に熟慮期間の延長の申立てをすることができますのでご相談ください。また、3か月を経過してから借金があることが判明したような場合、その時点から3か月以内であれば相続放棄できる例外的な場合もありますのでご相談ください。
ご相談事例
- 父が亡くなりましたが、兄弟で意見の違いが大きく、相続の手続が進みません。どのような手続きを行えばよいでしょうか。
- 相続人のひとりが、10年前から行方不明になっています。行方不明者以外で遺産分割をしてもよいでしょうか?
- 叔母が亡くなり、その遺産を相続することになりました。私以外の相続人が十人以上いるようであり、また殆どの人と付き合いがありません。どのように相続手続きを進めればよいでしょうか。
- 亡父の遺品を整理していたら、遺言書が出てきました。どうしたらよいでしょうか?
- 亡父の遺言では全ての遺産が兄にいくこととなっています。不公平だと思うのですが、どのような主張ができるのでしょうか。主張する場合の手続きはどうすればよいのでしょうか。
- 亡父の遺言の内容が不自然と思っています。この遺言の無効を主張するにはどうしたらよいでしょうか。
- 夫がなくなってから相続財産より多額の借金があることが分かりました。この借金も相続しないといけないのでしょうか?
相続に関するトピック
相続に関する定義
| プラスの財産 | 現金や預金はもちろんのこと、土地・建物といった不動産、車や貴金属等の動産、借地権や地上権、貸付金、そのほかの債権、株式、小切手等 |
| マイナスの財産 | 借入金、手形債務、税金(未払の住民税、所得税等)、保証債務債務(連帯保証)等が含まれます。 |
| 死亡退職金 | 原則として相続財産に含まれません。 |
| 生命保険金 | 原則として相続財産に含まれません。保険契約で定める死亡保険金受取人のものです。 |
| 但し、契約上、受取人が被相続人とされている場合は、原則として相続財産となります。 | |
| 香典・弔慰金 | 相続財産に含まれません。 |
| 慣習上、喪主あるいは遺族への贈与であると考えられています。 |
